お問い合わせ 『輪郭』に込めた想い

暮らす人のこと|92歳、オペラの舞台に立つ——「また歌いたい」を続けられる暮らし

Series | Interview with Kazuko Miyazaki: Part 1—The People Who Live There

年齢を重ねても、やってみたいことがなくなるわけではありません。
違いが出るのは、それを口にできる場があるか、続けていける環境があるかです。

八ヶ岳南麓の高台にある「わがままハウス山吹」で、宮崎和加子さんが大切にしているのは、年齢や状態だけで、その人の願いに線を引かないことです。

今回は、山吹で暮らす92歳の女性がオペラに取り組んだ話を通して、「また歌いたい」を続けられる暮らしについて考えます。

1|誰かの声がする場所で暮らしたい

    2|92歳で、もう一度歌う

      3|山吹が支えているのは、願いを続けられる土台

        まとめ|年齢を理由に、願いを閉じないために

          1誰かの声がする場所で暮らしたい

          「わがままハウス山吹」は、住民同士の小さなサロンが自然に生まれる住まいです。にぎやかすぎるわけではないけれど、居間やテラスに人の気配があり、ふとした会話が始まる。そんな時間が、日常のなかにあります。

          ここで暮らす92歳の美智子さん(仮名)のことを、宮崎さんが話してくれました。

          美智子さんは、移住後に長く一人暮らしをしてきました。自分のリズムで過ごせる一方で、この先の暮らしを考えたとき、不安もあったといいます。

          夜に具合が悪くなったらどうするのか。転んだとき、誰にも気づかれなかったらどうなるのか。そうした思いのなかで山吹を見学し、ここで暮らすことを選びました。

          宮崎さんによれば、美智子さんはこう話していたそうです。

          「部屋は狭くてもいいから、誰かの声がして、美味しいご飯があって、ちょっとおしゃれな会話ができる場所にいたい」

          この言葉には、不安を減らしたいという気持ちだけでなく、どんな空気のなかで、これからの時間を過ごしたいかという意思が表れています。山吹を選んだ理由は、ただ支えが必要だったからではなく、自分が望む暮らし方があったからでもありました。

          292歳で、もう一度歌う

          入居してしばらくしてから、美智子さんは宮崎さんに相談します。
          昔、歌っていたことがある。この年齢でも参加できるコーラスはないだろうか、と。

          その言葉を受けて、宮崎さんは地域のなかで参加できる場を探しました。そこで見つかったのが、オペラを学び、練習し、衣装もつくり、舞台にも立つ団体でした。送り迎えの体制もあり、美智子さんはそこに通い始めます。

          歌うことが予定に入り、練習が暮らしのリズムに入り、舞台の準備が日常のなかに入っていく。
          そうして美智子さんは、92歳でオペラの舞台に立ちました。

          この出来事は、結果だけを見れば、とても特別なことのように聞こえるかもしれません。けれども、本当に大事なのは「92歳で舞台に立った」という事実だけではありません。

          もともと本人のなかに、「また歌いたい」という思いがあったこと。
          それを言葉にできる相手がいたこと。
          そして、実際に続けられる形につながったこと。

          大きかったのは、その三つです。

          美智子さんの「また歌いたい」という思いは、もともと本人のなかにあったものでした。
          山吹での暮らしは、その願いを年齢を理由にしまい込ませず、もう一度続けられる形につなげていったのだと思います。
          美智子さんのオペラの話も、そうした出来事として捉えると、その意味の輪郭がよりはっきりしてきます。

          3山吹が支えているのは、願いを続けられる土台

          わがままハウス山吹では、年齢や要介護度、病気の種類だけで、その人の暮らし方を決めません。宮崎さんが大事にしているのは、「本人の中にあるもの」をどう受け取り、どう続けられる形にするかです。

          美智子さんの歌も、ここで新しく生まれた願いではありませんでした。昔歌っていたことがあり、またやってみたい。その気持ちがまずあって、山吹での暮らしが、それを無理のない形で支える土台になったのです。

          重要なのは、山吹が外から目標を与えたわけではないことです。
          あらかじめ本人のなかにあった思いを、年齢を理由に小さくしなかった。
          そのことに、この住まいの考え方がよく表れています。

          人の暮らしは、安全だけで成り立つわけではありません。もちろん支えは必要ですし、不安や不自由がなくなるわけでもありません。ただ、支えることと、本人の望みを小さく見積もることは同じではありません。

          山吹が支えようとしているのは、安全だけではなく、その人らしさが続いていく条件です。何をしたいのか。何を大事にしてきたのか。これからも手放したくないものは何か。そうしたものを本人の声として受け取り、実現できる形があるなら、なるべくその形に近づけてみる。その積み重ねが、日々の暮らしをつくっていきます。

          まとめ|年齢を理由に、願いを閉じないために

          美智子さんのオペラの話が教えてくれるのは、年齢を重ねても、人のなかから願いが消えるわけではないということです。
          ただ、その願いは、環境がなければ表に出てこないことがあります。言葉にする相手がいなければ、そのまま小さくなっていくこともあります。

          誰かと一緒に暮らすことは、管理されることではありません。
          年齢を重ねるとは、やりたいことを諦める前提で生きることでもありません。

          本人の中にあるものを、本人のものとして扱い続けること。
          そのうえで、無理のない形で暮らしのなかに位置づけていくこと。

          山吹が目指しているのは、そういう住まいなのだと思います。 92歳でオペラの舞台に立った――その結果はたしかに印象的です。
          けれども、この話の本質は、特別な出来事の華やかさではありません。
          「また歌いたい」という気持ちが、年齢を理由にしまわれず、暮らしのなかでちゃんと扱われたこと。そこに、この住まいの価値が表れているように思います。

          Related

          関連記事

          CONTACT

          「自分らしく生ききる」ための住まいや暮らしについて、お気軽にご相談ください。住まいや暮らしのご相談はこちら

          お問い合わせ