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老人ホームを選ぶ基準はどう変わった?介護の確保だけでは語れない今の住まい選び

Criteria for Choosing a Nursing Home

老人ホームを選ぶ基準は、時代とともに変わってきました。かつては介護を受けられるかどうかが中心でしたが、今はそれに加えて、暮らしの自由度や人とのつながり、自分らしく過ごせるかどうかまで含めて考える人が増えています。

その背景には、介護保険制度の整備によって選べる施設や住まいの形が広がったことに加え、高齢期の価値観そのものが多様になってきたことが挙げられます。内閣府「高齢社会白書」でも、住まい方の意識は同居から近居へと変化しており、老後の暮らしを自分で考えたいという流れがうかがえます。

この記事では、老人ホームを選ぶ基準がどのように変わってきたのかを振り返りながら、今の住まい選びで重なってきた考え方を整理します。

1.老人ホームを選ぶ基準は、なぜ変わってきたのか

    2.昔と今でどう違う?老人ホームを選ぶ基準の変化

    3.老人ホーム選びの基準を変えた3つの背景

    4.老人ホーム選びの基準の変化から見えてくる視点

    5.まとめ|老人ホーム選びは“入れる場所”探しから“これからの暮らし方”選びへ

      1.老人ホームを選ぶ基準は、なぜ変わってきたのか

      老人ホームを選ぶとき、かつては「介護を受けられるか」「安心して暮らせるか」といった点が、まず重視されやすい傾向がありました。高齢者施設は、生活の場であると同時に、介護を確保するための場として見られることが多かったためです。

      しかし近年は、それだけではなく、暮らし方や本人の希望、将来への備えまで含めて考えられるようになってきました。老人ホームは単に介護を受けるための場所ではなく、これからの暮らしを続けていく住まいとして見られるようになってきたといえます。

      こうした変化の背景には、介護保険制度の整備によってサービスや施設を選ぶという考え方が広がったことがあります。加えて、家族のあり方や老後に対する価値観も変わり、家族にすべてを委ねるのではなく、本人の意思を踏まえて住まいを決めたいと考える人も増えてきました。

      その結果、老人ホーム選びでは、費用や介護体制だけでは捉えきれない要素も重なってきました。

      今は、介護の必要性だけでなく、その人にとっての暮らしやすさや納得感まで含めて見られる時代になってきています。

      2.昔と今でどう違う?老人ホームを選ぶ基準の変化

      老人ホームを選ぶ基準は、最初から今のような形だったわけではありません。制度の整い方や、高齢期の暮らしに対する社会全体の考え方が変わるなかで、重視されるポイントも少しずつ移り変わってきました。

      ここでは、大きく3つの時期に分けて見ていきます。

      2-1.〜1990年代:制度重視・介護の確保が中心だった

      介護保険制度が始まる前は、今のように本人や家族が複数の施設を比較して、自分たちに合う場所を選ぶという形は一般的ではありませんでした。従来の老人福祉制度のもとでは、市町村がサービスの選択主体となる面が強く、利用者自身が自由にサービスを選べる仕組みではなかったためです。

      そのため、この時代の基準は、生活の自由度や居心地よりも、介護を確保できるか、公的な仕組みの中で必要な支援を受けられるかに重心がありました。サービス内容も今より画一的になりやすく、本人の希望やライフスタイルを細かく反映するというより、まずは安心して介護を受けられる場所であることが優先されやすかったといえます。

      つまり、老人ホームは「自分に合う住まいを選ぶ場所」というより、「必要な支援につながるための場」として見られる色合いが強かった時代でした。その一方で、高齢化の進展や核家族化、介護する家族の高齢化などにより、従来の支え方だけでは対応しきれない課題も少しずつ表れていました。

      参照:厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」

      2-2.2000〜2010年代:種類・費用・介護度を見比べる時代へ

      2000年に介護保険制度が始まると、老人ホームの選び方は大きく変わりました。従来は行政から割り当てられる施設に入る色合いが強かったのに対し、制度開始後は、利用者が施設を選び、契約して入居する仕組みへと移っていったためです。

      その結果、「入れる施設を探す」だけでなく、「自分に合う施設を比較して選ぶ」という視点が広がっていきました。

      この時期には、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、施設や住まいの種類、役割の違いが意識されるようになります。それに伴って、入居時費用や月額費用、要支援・要介護の状態に合っているか、将来的な介護への対応力はあるかといった点が、判断材料として重視されるようになりました。

      また、施設側も利用者や家族に選ばれる存在となり、設備やサービスの内容に工夫を凝らすようになっていきました。

      こうして老人ホーム選びは、制度の中で与えられるものを受けるだけではなく、複数の選択肢を比べながら、自分たちに合う条件を見きわめるものへと変わっていったのです。

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      今の老人ホーム選びで何を基準に比べればよいのか、失敗しやすいポイントも含めて具体的に知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
      老人ホームの選び方|後悔しない施設選びのポイントと探し方【暮らし視点で解説】

      2-3.2010年代後半〜現在:暮らしの質や本人らしさを重視する流れへ

      近年は、老人ホームを選ぶ基準がさらに広がっています。介護や医療の体制に加えて、どのような暮らしを続けられるかまで含めて見られるようになってきました。

      医療連携や看護体制など、将来の変化に備えられるかは引き続き重視されています。

      その一方で、個室で落ち着いて過ごせるか、生活のリズムや習慣をどこまで保てるかなど、日々の暮らしに関わる要素にも目が向けられるようになってきました。また、長く住み続けることを前提に、交流の機会や住まいとしての居心地まで含めて考える人も増えています。

      このように現在は、老人ホームを「介護を受ける場所」としてだけではなく、「これからの暮らしを支える住まい」として見る考え方が強まっています。

      基準が単に増えたというより、重視される重心そのものが少しずつ移ってきたといえるでしょう。

      3.老人ホーム選びの基準を変えた3つの背景

      老人ホームを選ぶ基準が変わってきた背景には、制度の変化だけではなく、家族関係や老後に対する考え方の変化もあります。

      施設の数や種類が増えたから基準が変わったというより、何を大切にして老後を暮らしたいかという価値観そのものが、少しずつ変わってきたと見る方が実態に近いかもしれません。

      3-1.家族に頼りきらない老後を考える人が増えた

      以前は、老後の暮らしや介護について、家族が大きな役割を担うことが前提になりやすい面がありました。しかし今は、「子どもに迷惑をかけたくない」「家族に負担を集中させたくない」と考える人が増えています。

      住環境研究所の「中高年の生活・住まいに関する意識調査」では、2000年と比べて「夫婦でも一人の時間がほしい」は12ポイント増、「一人ひとりの生活尊重」は17ポイント増である一方、「家族のまとまり第一」は27ポイント減、「結婚しても一緒に暮らしたい」は19ポイント減となっており、家族のまとまりを最優先するより、一人ひとりの生活を尊重したいという意識が広がっていることがうかがえます。

      また、家族がいても同居が当然とは限らず、それぞれが別々に暮らしながら、必要なときに支え合う形を望む人も少なくありません。内閣府「令和6年版高齢社会白書」でも、前回調査と比べて子との同居意向は低下し、近居意向は上昇していると整理されています。

      こうした意識の変化は、老人ホーム選びにも影響しています。家族の都合だけでなく、本人の暮らし方を踏まえて住まいを考える流れが強まっているためです。

      Preferences Regarding Living with or Near One’s Children

      老人ホームは、家族に代わって生活をすべて背負う場所というより、本人と家族の双方にとって無理の少ない暮らし方を支える選択肢のひとつとして考えられるようになってきました。

      3-2.高齢者自身の価値観が多様になった

      老後に求めるものも、以前より多様になっています。内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」では、生きがい(喜びや楽しみ)を「十分感じている」人が23.1%、「多少感じている」人が50.1%で、合わせて73.2%が何らかの生きがいを感じていると答えています。

      【現在どの程度、生きがい(喜びや楽しみ)を感じているか(60歳以上)】

      十分感じている多少感じているあまり感じていないまったく感じていない不明
      無回答
      感じている
      (合計)
      感じていない
      (合計)
      全体23.1%50.1%17.7%2.6%6.5%73.2%20.2%
      男性22.7%50.1%19.9%2.1%5.2%72.8%22.0%
      女性23.4%50.2%15.6%3.0%7.8%73.6%18.6%
      内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」より作成

      また、高齢期に何を楽しみや生きがいと感じるかも、以前より多様になっています。生きがいを感じる場面としては、「孫など家族との団らんの時」が55.3%で最も高い一方、「おいしい物を食べている時」54.8%、「趣味やスポーツに熱中している時」53.5%、「友人や知人と食事、雑談している時」52.6%も高くなっています。

      家族との時間はもちろん大切にされているものの、それだけではなく、食事の楽しみや趣味、人との交流など満足感を支える要素は一つではありません。

      【高齢者が生きがい(喜びや楽しみ)を感じる時(60歳以上)】

      項目全体男性女性
      孫など家族との団らんの時55.3%49.0%61.2%
      おいしい物を食べている時54.8%46.5%62.6%
      趣味やスポーツに熱中している時53.5%56.3%50.9%
      友人や知人と食事、雑談している時52.6%42.5%62.1%
      テレビを見たり、ラジオを聞いている時43.2%36.8%49.3%
      旅行に行っている時39.8%40.3%39.3%
      夫婦団らんの時34.5%42.3%27.2%
      他人から感謝された時31.7%28.4%34.7%
      仕事に打ち込んでいる時30.9%36.1%26.0%
      収入があった時24.8%22.4%27.1%
      勉強や教養などに身を入れている時16.7%19.0%14.6%
      社会奉仕や地域活動をしている時12.5%15.4%9.8%
      若い世代との交流をしている時10.0%9.1%10.9%
      その他1.2%1.5%1.0%
      不明・無回答0.7%0.8%0.7%
      内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」より作成

      こうした価値観の多様化は、老人ホームに求められるものにも影響しています。介護のしやすさに加えて、生活のしやすさや居心地のよさまで含めて見られるようになってきました。

      つまり、老人ホームは「誰かに決めてもらう場所」ではなく、「自分で納得して選ぶ住まい」として見られるようになってきたのです。

      3-3.住まいを“終の住処”として考える人が増えた

      老人ホームを一時的な滞在先ではなく、長く住み続ける場所として考える人も増えています。近年は、介護が必要になってから慌てて探すのではなく、少し不安を感じた段階で早めに住まいを考え始める傾向もうかがえます。

      LIFULL seniorの「介護施設入居実態調査2025」では、自立状態で入居した人の理由の最多が「一人暮らしの継続が困難」で27.8%でした。

      Reasons for moving in for those without a long-term care certification

      また、入居時の要介護度を見ると、「自立」から「要介護2」までが67.8%を占めており、特別養護老人ホームの入居条件である原則要介護3以上に達する前の段階から住み替えを検討する人も少なくないことが分かります。

      さらに、高齢後期の住み替え先を見ると、内閣府の2020年調査において、過去5年間に住み替えた85歳以上のうち、移動先が施設の人はほぼ7割、一般世帯は残り3割でした。住み替え先の多くは、これまで暮らしてきた市町村内の施設でもあり、老人ホームが高齢後期の現実的な住み替え先として選ばれていることが分かります。

      Level of care required at the time of admission

      その結果、住み替えを前提にしない住まいとして、将来の変化にどこまで寄り添えるかも見られるようになっています。

      老人ホームを終の住処として考える視点が広がったことで、選ぶ基準は「今の状態に合うか」だけでなく、「この先も無理なく住み続けられるか」「その人らしい暮らしをできるだけ保てるか」へと広がってきたのです。

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      老人ホームに限らず、老後の住まいを全体から整理し、どのような選択肢があるのか知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
      老後の住まいの探し方・選び方完全ガイド|『どうする?』から『納得の選択』へ

      4.老人ホーム選びの基準の変化から見えてくる視点

      近年の変化を見ると、老人ホームには費用や介護体制だけでは捉えきれないものになってきています。介護を受けられるかだけでなく、どのように暮らし続けられるかまで含めて見られるようになっているためです。

      ここでは、基準の変化を通して見えてきた視点を整理します。

      4-1.介護を受ける場所だけでなく、暮らしを続ける住まいとして見られるようになった

      老人ホームは、介護を受ける場所であると同時に、日々の暮らしを送る住まいでもあります。そのため、介護や安全面が整っていることに加えて、日常の過ごし方にどれだけ本人の意思や習慣を反映できるかも意識されるようになってきました。

      たとえば、起きる時間や休む時間、食事の取り方、趣味や習慣の続けやすさなど、毎日の小さな積み重ねは暮らしやすさに直結します。安心して過ごせることに加えて、生活が極端に画一化されすぎないことにも目が向けられるようになっています。

      このように、老人ホームは介護のための場としてだけでなく、これまでの暮らしをどのように引き継げるかまで含めて見られるようになってきました。

      4-2.条件だけでは見えない、関わり方や価値観の相性も重なってきた

      設備やサービスが整っていても、それだけで暮らしやすさが決まるわけではありません。落ち着いた雰囲気を好む人もいれば、人の気配がある方が安心する人もいます。声かけの距離感や入居者同士の空気感など、数字では見えにくい部分も、住まいとしての心地よさに関わります。

      以前よりも、老人ホームに求められるものは機能だけでは語りきれなくなってきました。どのような関わり方が大切にされているのか、どのような価値観のもとで日々が営まれているのかといった点も、住まいとして見るうえで重なってきた視点の一つです。

      こうした変化によって、老人ホームは条件の合致だけでなく、関わり方や価値観の相性まで含めて受け止められるようになってきたといえます。

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      介護施設・老人ホーム見学で失敗しないチェックポイント|質問リスト付き完全ガイド

      5.まとめ|老人ホーム選びは“入れる場所”探しから“これからの暮らし方”選びへ

      老人ホームを選ぶ基準は、時代とともに変わってきました。かつては介護を受けられるかどうかが中心でしたが、今はそれに加えて、暮らしの自由度や人との関わり方、どのような毎日を送れるかといった視点も重なっています。

      つまり、老人ホーム選びは、単に入れる場所を探すことではなくなってきています。

      介護の必要性だけでは語れず、その人にとってどのような暮らしが続けられるかまで含めて考えられるようになったことが、今の大きな変化だといえるでしょう。

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