老後を健康に過ごすためには、「平均寿命」と「健康寿命」の差を小さくすることが重要です。健康寿命は運動や睡眠など複数の生活習慣の影響を受けますが、食事は毎日取り組めて改善を積み上げやすい対策です。
ただし高齢期は、食事への意識が高くても、食事の量や内容が偏りやすく、低栄養につながることがあります。そこで重要になるのが、栄養を不足させない食事の組み立てと、無理なく続けるための工夫です。
この記事では、健康寿命の基礎データを確認したうえで、低栄養を防ぐ食事の組み立て方・続け方を具体的に整理します。あわせて、買い物が負担になった場合でも食事の多様性を保つための方法を紹介します。
1.なぜ“毎日の食事”が老後の健康を左右するのか
私たちは歳を重ねるほど、病気や体力の衰えが“仕方ないこと”のように感じがちです。しかし近年の研究や国の調査では、「老後の健康状態は、毎日の食事で大きく変えられる」ことが明確になってきています。
特に50代以降の人や、高齢の家族を支える人、高齢者施設で食事づくりに関わる人にとって、“いまどんな食生活を続けるか”が、10年後・20年後の生活の質を左右することは決して大げさではありません。その理由は、平均寿命と健康寿命の差に表れています。
まずは、日本人の「どれくらい元気に暮らせているか」を示す、平均寿命と健康寿命の差から、なぜ食事が重要なのかを見ていきましょう。
1-1.平均寿命と健康寿命の差が示す課題
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日本の平均寿命は男性81.05年、女性87.09年(2022年)です。これに対して、日常生活に大きな支障なく過ごせる健康寿命は男性72.57年、女性75.45年となっています。
平均寿命と健康寿命の差は、男性で約8.5年、女性で約11.6年です。この差は、「介助が必要になりやすい期間」=要支援・要介護リスクが高まる期間を示しています。
つまりこの期間、日常生活に何らかの制限を抱えながら生活している人が多いのです。
そしてこの差を縮めるために重要なのが、以下の3つです。
・低栄養を防ぐこと
・食べやすい環境を整えること
・偏りのない食事を続けること
これらは「老後の不調」の入り口になりやすく、放置すると生活の自立度が急速に下がります。
“日々の食事をどう整えるか”は、健康寿命に直結する課題です。
参考:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」
参考:厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」
1-2.細胞の視点——テロメアが語る「食と老い」のつながり
近年、「テロメア」「サーチュイン」といった“細胞レベルの老化”に関する研究が注目されています。これらは決して専門家だけの話ではなく、老後の健康に関心を持つ人すべてに関係する“体の仕組み”です。
テロメアは細胞分裂のたびに短くなる染色体の端で、極端に短くなると細胞が老化しやすくなります。一方、テロメアを守る酵素であるテロメラーゼ(TERT)が働くことで、老化の進行が緩やかになる可能性が報告されています。
またサーチュインという酵素は、炎症やストレスへの抵抗性を高める“長寿関連因子”として研究が進んでいます。
ただし、これらは「特定の食品がテロメアを伸ばす」「老化が止まる」といった単純な話ではありません。
重要なのは、以下のような生活習慣全体のバランスです。
・偏らない食事(多様な栄養)
・適度な運動
・良質な睡眠
・メンタルストレスの管理
生活習慣全体のバランスが、細胞レベルの健康状態に良い影響を与える点が大切です。
つまり、細胞の老化は“毎日の積み重ね”で変えられる可能性があるということです。老後を見据えた健康づくりは、50代からの食事をどう整えるかで大きく変わる可能性があります。
参考:長寿科学振興財団「テロメア伸長から迫る健康長寿」
参考:Zhu TY, et al., Aging Cell. 2024: e14445. doi: 10.1111/acel.14445; Shim HS, et al., Cell. 2024; 187(15): 4030-4042
1-3.“バランスのとれた食事”ができること
高齢期の体は、筋肉がつきにくくなったり、免疫力が下がったりと、さまざまな変化が重なります。こうした“老後の弱りやすさ”に対して、もっとも確実に働くのが毎日の食事です。
主食・主菜・副菜をそろえ、魚・肉・卵・大豆・乳製品・野菜・果物などを少しずつ取り入れる「10食品群」の食べ方は、自然と栄養の偏りを防ぎ、体力・認知機能・免疫の維持に役立ちます。
「今日は魚がなかったから明日は肉にしよう」「野菜が少なかったから今日は意識して増やそう」。そんなふうに1週間でバランスを整えるだけでも、老後の健康づくりは着実に前進します。
大切なのは、毎食を完璧にすることではなく、無理なく続けられる形で食事の偏りを減らすことです。
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平均寿命と健康寿命の違いや、元気に自立して過ごすための基本を全体から整理したい方は、こちらの記事も参考にしてください。
『高齢者の健康寿命を延ばす方法|最新データと平均寿命との違いを徹底解説』
2.いまの高齢世代の実態:意識は高いが、低栄養のリスクが残る
老後の健康を考えるとき、「何をどれだけ食べているか」は避けて通れないテーマです。
実際には、食事バランスへの意識が高い一方で、低栄養のリスクを抱える人が多いという“二面性”が最新調査から見えてきました。
ここでは現在の“食生活の実態”を整理しながら、なぜ低栄養が起きるのかを見ていきます。
2-1.主食・主菜・副菜をそろえる人は増えている
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厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、年齢が上がるほど健全な食生活を心がける人が増えています。70歳以上では、「主食・主菜・副菜を1日2回以上ほぼ毎日食べている」と回答した人の割合が、男性で70%、女性で71%に達しています。
また、同調査では食塩摂取量が平均9.6gと、依然高いものの12年間で最も低い値となっており、食事改善に向けた取り組みが着実に進んでいることがうかがえます。
一見すると「高齢者の食事はうまくいっている」と感じられるデータが並びますが、次に述べる“もう一つの側面”が問題です。
2-2.それでも起きる「低栄養」——背景と健康影響
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同じ調査では、高齢になるほど低栄養傾向(BMI20以下)の人が増えるという事実も明らかになっています。2024年の調査では、65歳以上の低栄養傾向は19.5%であり、10年間で大きな改善が見られていません。
背景には、以下のような複数の課題があります。
・孤食の増加
・調理の負担や面倒さ
・食料品店へのアクセスの不便(買い物弱者問題)
・家計の制約による品数の減少
・噛む力・飲み込む力の低下(オーラルフレイル)
こうした要因が重なり、「意識だけでは必要な栄養に届かない」状況を生んでいます。
低栄養になると、認知機能の低下や日常生活機能(ADL)の衰えが進みやすく、要介護リスクや生存率の低下とも関連することが報告されています。
また、食事の多様性が乏しいほど生活機能が低下しやすいとの指摘もあります。
同じ食品ばかりに偏る“食事の単調化”を放置しないことが重要です。
3.老後の健康を支える「食」の設計
高齢期の食事は、毎日小さな選択の積み重ねです。しかし、「今日は何を食べればいい?」「どれくらい必要?」という疑問に直面すると、迷いが生まれ、続けることが難しくなります。
そこでこの章では、老後の健康づくりに役立つ“続けられる食の仕組み”を整理します。
3-1.迷わないための判断軸(5つ)
何を買い、何を作り、どれほど食べるか。日々の食事の選択で迷わないために、まず“判断軸”を5つ決めておくことが効果的です。
(1)食事は「1週間単位」で調える(不足群を後から補う)
1食ごとに「完璧」を目指す必要はありません。高齢期は体調や予定で食が揺れやすいため、“1週間で少しずつバランスをとる”ほうが続けやすく効果的です。
たとえば、以下のような週レベルの調整が、負担少なく栄養の偏りを防ぎます。
・昨日足りなかった食品群を今日足す
・週のなかで魚・肉・卵・大豆・乳製品をローテーションする
(2)たんぱく質は毎日「必ず」入れる(1食20gを目安に)
高齢者は筋肉が作られにくくなるため、たんぱく質は最重要栄養素です。
毎食、肉・魚・卵・大豆・乳製品のいずれかを主役にし、1食あたり20g前後を意識しましょう。たとえば、魚1切れ、肉80〜100g、卵2個+納豆1パックなどが目安になります。
たんぱく質量は、食事摂取基準(2025年版)を参考に、自分に必要な量を確認しましょう。
そのうえで、日々の目安としては「体重1kgあたり約1.0g/日」をひとつの基準として考えると、量のイメージがつきやすくなります。たとえば、体重60kgなら約60g/日が目安です。
参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
参照:健康長寿ネット「高齢者の食事摂取基準」
(3)噛みやすさ・飲み込みやすさを“毎食”で調整する
加齢で噛む力・飲み込む力が変化しやすいため、食材の硬さ・大きさ・とろみを体調に合わせて調整します。
一口量を小さく、軽く前傾姿勢で、ゆっくり飲み込むことを基本にします。
食べにくさを我慢するのではなく、食材や食べ方を毎食少しずつ調整することが大切です。
(4)調理負担は「買い方×下ごしらえ」で下げる
老後の食事の大きな壁は“作るのが大変”ということです。買い方や下ごしらえの少しの工夫だけでも、食事作りのハードルを下げることができます。
たとえば、以下のような工夫があります。
・冷凍野菜・カット野菜・缶詰・総菜を「栄養確保の道具」と割り切る
・卵・豆腐・ヨーグルトなど“準備いらず”食品を常備する
・作り置きよりも「茹でて小分け冷凍」など短時間の下ごしらえを中心にする
また、宅配弁当や介護食の活用も“栄養確保の手段”として前向きに考えます。
調理をすべて自力で頑張るのではなく、続けられる方法を組み合わせることが重要です。
(5)食材が届くルートを複数持つ(買物弱者対策)
移動販売・宅配・共同購入・共食(地域食堂)などを組み合わせ、天候・体調・急用でも食の確保が途切れにくい状態にします。
これらは、食料アクセスの確保=栄養を守るインフラです。
具体的な選択肢は5章で整理します。
3-2.「何をどれだけ」——量・頻度・食材例
判断軸が決まったら、次は「どれくらい食べると健康を守れるか」を具体的に考えます。数字の目安があると、買い物・盛り付け・補食の判断が早くなります。
①たんぱく質は毎食しっかり(1食20gが目安)
高齢期は筋肉が作られにくくなるため、たんぱく質は最も重要な栄養素です。
1日の目安は、体重×1.0gです。たとえば、体重60kgなら60g/日が目安になります。
1食20gの例は、以下の通りです。大まかな目安として考えましょう。
・魚:切り身1枚
・肉:80〜100g
・卵:2個
・大豆製品:豆腐1/2丁、または納豆1パック+少量の卵
・乳製品:牛乳コップ1杯+ヨーグルト
「毎食“たんぱく質の主役”をひとつ置く」だけでも大きな効果があります。
②エネルギーは“体重維持”を目安に
高齢者は食欲が落ちやすく、気づかないうちにエネルギー不足になることがあります。
難しい計算より、体重が落ちていないかを確認するのが最も簡単で確実です。食が細い日は、ヨーグルト・プリン・チーズ・卵などを“補食”にしましょう。
③野菜・海藻・果物は“毎日少しずつ”
野菜摂取量の目標として1日350gという数値はありますが、家庭では「毎食ひとつ野菜のおかず」が現実的です。
海藻や果物は、次のように取り入れやすいものから始めると続けやすくなります。
・海藻:乾燥わかめ・ひじきは“入れるだけ”食材
・果物:みかん1個、バナナ1本などを間食に
10食品群では、芋・海藻・肉が不足しやすいとされており、意識的に追加するとよいでしょう。
10食品群については次章で詳しく確認します。
④乳製品・カルシウム・ビタミンDの補給
乳製品は、牛乳・ヨーグルト・チーズのどれかを1〜2回取り入れると続けやすくなります。また、魚、特に鮭・さばや、干し椎茸はビタミンD源として優秀です。
骨の健康維持のため、毎日どこかに組み込みましょう。
⑤味つけと汁物は“薄味+具だくさん”
塩分は日本人全体で依然高めで、平均9.6gとされています。塩分を控える工夫も忘れてはいけません。
だしを濃くして塩を控えたり、汁物を具だくさんにしたりすると、塩分量を抑えつつ満足感を高めやすくなります。
薄味を我慢するのではなく、だしや具材で満足感を補うことが続けるポイントです。
3-3.「食べにくさ」を解決する調理・食べ方のコツ
高齢期は噛む力・飲み込む力が日によって変わり、同じ食材でも食べにくさが大きく異なります。そこで、毎日の食事で実践しやすいポイントを“動作”に落とし込んでおきましょう。
・噛みやすくする
肉は小さく切る・叩いて薄くする、野菜は皮をむいて柔らかくゆでるなど、下処理で食べやすさをつくります。
・飲み込みやすくする
煮物や蒸し物で軟らかくし、パサつく食品はあんやソースでまとめます。必要に応じて薄い〜濃いとろみを使い分けると誤嚥防止に役立ちます。
・食べ方の工夫
軽く前傾姿勢で、ひと口を小さく。口の中を空にしてから次を食べる。この基本動作だけでも誤嚥リスクを減らせます。
食べにくさは、食材選び・調理・姿勢の工夫で軽くできる場合があります。
参照:三重大学病院 ONLINE MEWS「食べる機能が落ちてきたときの食事(誤嚥調整食)」
4.1週間で整える「続けやすい」食事の回し方(実践例)
高齢期の食事は、体調や食欲によって日ごとに波があります。そのため「毎日完璧」を目指すより、1週間を単位に“全体として偏りを減らす”ほうが継続しやすく、無理のない食事づくりにつながります。
ここでは「続けやすい」食事の回し方をみていきましょう。
4-1.「10食品群」を使って“偏り”を見える化する
高齢者の低栄養予防として知られているのが、東京都健康長寿医療センターの研究に基づく「10食品群チェック」です。食べた食品群に点を付けるだけなので、カロリー計算が不要で継続しやすい点が特徴です。
10食品群:
魚/油/肉/牛乳・乳製品/緑黄色野菜/海藻/芋/卵/大豆製品/果物

やり方はとてもシンプルです。
「食べた食品群に丸をつける」→“1日7点以上”を目安にするというだけです。点数が少ない日は、翌日以降に不足している食品群を足せば問題ありません。
たとえば、以下のような偏りが見えやすくなります。
- “肉が少ない週だった”
- “海藻と芋は意識しないと抜けやすい”
このように“偏り”が可視化されるため、家族・施設でも活用しやすい方法です。
4-2.1週間の回し方(例)
毎日の食事は、朝・昼・夜で「無理なく点数が稼げる型」を決めておくと、1週間の栄養バランスが安定します。
以下はそのまま取り入れられる実例です。
●朝:牛乳+果物で2点を自動確保(乳製品・果物)
朝は“考えずにできるセット”にすると継続率が上がります。
たとえば、以下のような組み合わせです。
・牛乳コップ1杯、または飲むヨーグルト
・バナナ、りんご、みかんなど皮をむくだけの果物
忙しい朝でもリズムにしやすく、1日の栄養スタートが安定します。
●昼:惣菜+小鉢で“3〜4点”を手軽に積む
昼は“買う選択肢”を活用します。スーパーやコンビニの惣菜を選ぶだけで食品群を増やせます。
たとえば、以下のような組み合わせです。
・主菜:焼き魚(たんぱく質)
・副菜小鉢:ひじき煮(海藻・豆)、きんぴら(野菜)
・余裕がある日はカットサラダや冷ややっこを追加
惣菜は「選ぶだけ」で食品群が増えるため、調理に自信がない高齢者でも取り入れやすいのがポイントです。
●夜:主菜1品+野菜の汁物で2〜3点
夜は“軽め+温かい”を基本にすると、無理がなく続けやすいです。
たとえば、以下のような組み合わせです。
・主菜
肉・魚・卵のいずれか1品(焼く・煮るだけでOK)
・汁物
味噌汁に野菜をひとつ追加(ねぎ・キャベツ・きのこ等)
汁物は具材を変えるだけで栄養が変わるため、1週間続けても飽きず、点数の底上げに役立ちます。
●不足した日は“3つのレスキュー食品”で即時補充
点数が足りない日は、以下の「決めておくレスキュー食材」で簡単に調整できます。どれも自宅に常備しやすく、調理ほぼゼロで栄養を補えます。
・牛乳コップ1杯(乳製品で1点)
冷蔵庫に常備しておけば即対応できます。
・味噌汁に乾燥わかめや油揚げを追加(海藻・大豆製品)
ストック食材なので賞味期限の心配が少なく、手間もほとんどかかりません。
・果物を1つ(果物で1点)
バナナ・みかん・りんごなど“保存しやすい果物”が最適です。
●この方法のポイント:引き算ではなく“足し算”で整える
1週間の食事には波があって当然です。この方式は、「作れなかった日を責める」のではなく、足りないときに“1品足せば戻せる”安心の設計です。
たとえば、以下のように調整できます。
・忙しい日は朝・昼で合計3点だけでOK
・元気がある日は夜の汁物を具だくさんにする
・足りない日は牛乳や果物でサッと修正する
このように、足し算だけで調整できるため、高齢者でも続けやすいスタイルです。
参照:東京都健康長寿医療センター「おいしく食べて低栄養予防!」
5.「買い物難民」の壁を越える:食品アクセス問題と対策
高齢者の食生活を語るうえで欠かせないのが、「そもそも食品が手に入りにくい」という問題です。
食べたいものが買えない、店まで遠い、重い荷物が運べない。こうした“食品アクセス問題”は、都市部でも広がっており、老後の健康を左右する大きな要因になっています。
以下では、現状と対策を「生活に直結する視点」で整理します。
5-1.生活を支える「届くルート」の選択肢
買い物困難を解決するためには、複数の“届くルート”を持っておくことがもっとも効果的です。
1つの手段だけに頼るほど、体調・天候・家族の都合によって食材が途切れやすくなるためです。
●主な選択肢
・移動スーパー(玄関先で買える“動く店舗”)
自宅や団地前まで来てくれるため、外出が難しい日でも利用できます。生鮮品を対面で選べ、販売員との会話が“見守り”にもつながります。
・宅配(生協・ネットスーパー・個別配達)
重いものが運べない時の強い味方です。冷凍食品や常温食品をストックしやすく、配達の組み合わせで負担を調整できます。多くの自治体も有効な対策として位置づけています。
・買い物バス・乗合タクシー(自治体が支える移動手段)
店舗が遠い地域では、移動支援そのものが“食を守るインフラ”になります。
・近居・ご近所の共助(まとめ買い・お裾分け)
近居やご近所の方とまとめ買い・お裾分け・買い物同行などを行うことで、身近な助け合いが“負担の分散”と“孤立予防”につながります。
食材が届くルートを複数持つことは、低栄養を防ぐための大切な備えです。
5-2.食品アクセス問題の定義と規模感(公的データ)
農林水産政策研究所では、「店舗までの直線距離が500m以上あり、かつ65歳以上で自動車を利用できない人」を「食料品アクセス困難人口」として定義しています。
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この基準で推計すると、2020年時点で全国に約904万人います。65歳以上の4人に1人(25.6%)が、食品の買い物に不便を抱えている計算です。
さらに75歳以上は566万人で、全体の63%を占めます。年齢が上がるほど問題が深刻化していることが分かります。
2015年比で約9.7%増しており、地方だけでなく都市部でも課題が広がっていることが報告されています。
こうした背景から、食品アクセス問題は「個人の努力では解決しづらい社会的課題」として位置づけられています。
参考:農林水産省「2020 年食料品アクセス困難人口が推計されました」
5-3.地域の取り組みと行政による支援策(最新調査より)
食品アクセス問題は、個人だけでは解決が難しい社会的課題です。農林水産省の最新調査では、食料品の買い物が不便・困難な住民への対策について、現時点で「対策が必要」または「ある程度必要」と回答した市町村は89.3%にのぼっています。平成30年度以降、対策の必要性を感じる市町村の割合は増加傾向にあります。
一方で、対策を必要としている市町村のうち、行政による対策が実施されている割合は74.1%でした。つまり、多くの自治体で必要性は認識されているものの、すべての地域で十分な対策が整っているわけではありません。

こうした背景から、地域ではコミュニティバスや乗合タクシーの運行、移動販売への支援、宅配・買い物代行サービスとの連携など、さまざまな取り組みが進められています。地域の状況によって使える支援は異なるため、まずは自治体の高齢福祉窓口や地域包括支援センターなどで、利用できる制度やサービスを確認しておくと安心です。
買い物困難は、個人の努力だけで抱え込まず、地域の支援策や民間サービスも組み合わせて考えることが大切です。
参照:農林水産省『「食品アクセス問題(買物困難者)」に関する全国市町村アンケート調査結果』
参照:農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題ポータルサイト」
5-4.【事例】移動スーパーは“生活のインフラ”へ
移動スーパーは、買い物が難しい地域で、“店に行く”のではなく“店が来る”仕組みとして全国的に広がっています。
高齢者にとっては食品の入手手段であると同時に、見守り・会話・孤立予防にもつながる“生活のインフラ”となりつつあります。
・KASUMI(茨城・埼玉・千葉・栃木)
関東広域で移動スーパーを運行し、生鮮品から惣菜・日用品まで約650品目を搭載する地域もあります。自治体と連携し「見守りネットワーク事業」の一環として運行する事例も見られ、買い物支援と安心づくりを同時に担っています。
・とくし丸(全国展開)
地域スーパーと提携しながら全国でネットワーク化され、約400品目を積んだ車両が1,200台以上稼働しています。2024年には消費者庁長官表彰。利用者との会話や安否確認など、福祉的な役割を果たしている点が高く評価されています。
移動スーパーのような仕組みは、単なる買い物支援ではありません。食材の確保・見守り・地域とのつながりを同時に支える生活インフラとして活用できます。
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配食だけでなく、家事代行や訪問介護など、暮らしを支える支援全体を整理したい方は、こちらの記事も参考にしてください。
『【高齢者 生活支援サービス】完全ガイド|家事代行・配食・訪問介護・保険外サービスを比較』
6.まとめ:無理なく続く食のしくみづくりに向けて
高齢期の食生活を安定させるうえで大切なのは、知識よりもまず「食べられる環境」を整えることです。
栄養の偏りは一日単位でなく一週間で調整すればよく、食べにくさは調理や食べ方の工夫で大きく改善できます。
また、買い物がしづらい状況は全国で広がっており、店舗まで500m以上かつ自動車を使えない高齢者が904万人にのぼる現状が報告されています。こうした背景から、移動販売や宅配、買い物バスなど“食材が届く仕組み”を複数確保しておくことが、低栄養や孤立を防ぐ確実な備えになります。
食べる力を守ることは、心身の健康と日々の生活を守ることにもつながります。
できる方法を少しずつ組み合わせ、無理なく続けられる「食が途切れないしくみ」を整えていくことが、老後の安心につながります。
