朝日新聞に「わがままハウス山吹」が紹介されたことをきっかけに、全国から問い合わせが寄せられるようになりました。けれど宮崎和加子さんは、問い合わせが増えたあとも、見学の対象をむやみに広げることはありませんでした。
宮崎さんは、こう話しています。
「ここは生活している場所だから、見学は、ここで暮らすことを具体的に考えている人に向けたものなんです」
この言葉からは、見学を断るためというより、この家で続いている日常を先に守ろうとする姿勢が伝わってきます。
今回は、見学の受け入れ方に表れている、山吹の「生活の場を守る」という考え方を見ていきます。
1|問い合わせが増えても、見学の受け入れ方は変えなかった
新聞に掲載されたあと、山吹の存在はそれまでより広く知られるようになりました。外からの関心が高まれば、より多くの人に見てもらう機会を設けることもできたはずです。
それでも山吹は、見学を受け入れる人をむやみに増やしませんでした。
ここは、見学のための施設ではなく、人が毎日を過ごしている生活の場だからです。
見学者が増えれば、人の出入りや説明にかかる時間も増え、いつもの暮らしの流れが変わることがあります。外から訪れる人にとっては、短い見学時間かもしれません。けれど、そこで暮らしている人にとっては、自分たちの日常の中に知らない人が入ってくる時間でもあります。
取り組みを知ってもらうことは大切です。同じようなシェアハウスをつくりたいと考える人に、山吹の実践を伝える意味もあります。
実際に宮崎さんは、入居を具体的に考えている人だけでなく、こうした住まいをつくりたいという思いを持つ人も受け入れてきたと話していました。
ただし、山吹が見学を受け入れるのは、単に見たいという関心に応えるためではありません。
何より先に考えられているのは、今ここで暮らしている人たちの一日です。
その日常を崩さないために、見学の入口は慎重に設けられてきました。
2|見学は、ここで暮らすことを自分のこととして考える時間
山吹の見学は、ただ雰囲気を確かめるためのものではありません。ここでの一日の流れや人との距離感にふれながら、自分がこの場所で暮らすとしたら、どのような日々になるのかを考える時間でもあります。
食事の時間や人との距離、共有の場所の使い方など、共同生活には部屋や設備を見るだけでは分からないことがあります。自分のペースでできることもあれば、周囲に合わせることもあります。
同じ家には、すでに生活を送っている人たちがいます。見学は、将来その人たちと暮らすかもしれないことを、実感を伴って考える機会でもあります。
宮崎さんは、入居を考える人に対して、山吹で暮らすことの重さも伝えてきたと話していました。
「入れば何とかなる、ではなくて、ここで暮らすことで自分の生活が変わることまで考えて来てほしいんです」
一人暮らしが長かった人にとって、共同生活に移ることは、生活の形を変えることでもあります。そこには期待だけでなく、これまでの暮らし方を少し変える覚悟も必要になります。
誰かと同じ家で暮らすことには安心がある一方で、自分のペースだけでは進まない難しさもあるかもしれません。
見学は、山吹のよさを知るためだけの時間ではなく、ここで暮らすことを自分のこととして受け止めるための入口でもあります。
山吹は、年齢や要介護認定の有無だけで、入居する人を一律に分ける場所ではありません。ただ、ここは共同生活の場です。
だからこそ、見学でも建物を見るだけではなく、ここでの暮らしが自分に合うかを考える時間が大切にされています。見学の線引きも、その考え方とつながっています。
関心の大きさに合わせて見学を増やすのではなく、今の毎日に無理が出ない形を選ぶ。そのうえで、実際に入居を考えている人には、ここでの暮らしを自分のこととして確かめてもらう。
山吹の見学は、そのために受け入れられてきたのだと思います。
まとめ|見学の前に、そこにある暮らしを考える
見学の希望に応えるほど、山吹を知る人や、取り組みを伝える機会は増えていきます。けれど、見学のたびに暮らしの流れが揺らいでしまえば、本来大切にしているものが後回しになってしまいます。
山吹が、希望者を一律に受け入れるのではなく、入居を具体的に考えている人や、同じような住まいをつくりたいと考えている人を中心に見学を受け入れてきたのは、注目を避けるためではありません。
ここには、すでに毎日を過ごしている人たちがいるからです。
見学は、外に向けて場所を紹介するだけでなく、暮らしの中に人を迎え入れる時間でもあります。その線引きには、外からの関心よりも、今ここで続いている日常を大切にする姿勢があります。
住まいを見るとき、私たちはつい、建物や設備、仕組みに目を向けます。もちろん、それらも大切です。
ただ、その場所には誰の日常があるのか。自分がそこで暮らすとしたら、どのような人たちと時間を重ねることになるのか。そうしたことも、住まいを選ぶうえで欠かせない視点です。
山吹の見学の受け入れ方をたどると、住まいを見ることは、そこで続いている誰かの日常にふれることでもあるのだと思います。

